第23話



 美代子さんからもらい続ける五百円玉がガラス瓶の半分を占めるようになってくるのと同じくして、自分の体力も徐々に強固なものへとなってきた。


 始めは堤防を軽く一周するだけでも呼吸が乱れていたというのに、大窪さんの言う通り、地道にウォーキングを繰り返してきただけで、それまでの辛さは嘘のように楽になった。


 実に身体が軽いのだ。重々しかった足取りも、まるで羽が生えたかのように軽やかに踏み出す事ができる。


 その事に気付きもせず、初めてそのペースで堤防一周できた時、大窪さんは大げさなほど喜び、拍手までしてくれた。


「やりましたね、今井さん!堤防一周行けましたよ、どうですかご気分は?」


 問われるまでもなく、最高であった。歩くという行為が、こんなに心地よいものだとは。


 そして、自分はとても幸運だと思えた。


 息子達以外、誰も見知らぬ町にやって来たというのに、ここまで良くしてくれる人に出会えるとは思いもしなかった。


 今では毎日がとても楽しい。どんどん長い距離を歩けるようになっていく自分に、とても自信が湧いてくる。全て、大窪さんのおかげだ。



 改めて、大窪さんに礼を述べた。


「ありがとうございます。今なら、あそこのカツ丼完食できる気がしますよ」

「あはは、そうですか?でも、それはもっと先の目標にしましょう。もう少し慣れたら、次は早歩きに挑戦して、その後ジョギングに」

「それは楽しみですなあ」


 自分は、その日を本当に楽しみにしていた。あんな事を、知ってしまうまでは…。

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