第22話

「では、今日はこれで」


 夕方に近い時間になる頃、自分達二人は正治の家の前まで戻ってきた。


 軽い会釈をしながら挨拶をしてくれる大窪さんに、自分も同じように返す。そして、「ええ、また明日」と言おうとした時、背後から美代子さんの声が被さってきた。


「…お義父さん?何されてるんですか?」


 振り返ってみれば、いつも通りの格好の美代子さんが自分達をひどく怪訝そうな顔で見つめている。


 それはそうだろうと思った。自分のユニフォーム姿に短パンという格好など、美代子さんから見れば相当滑稽に違いないだろうから。


 だが、大窪さんとの交流で少しばかり気持ちが大きくなっていた自分は、美代子さんに向き直って話し始めた。


「やあ、美代子さんお帰りなさい。いや何、こちらの方と意気投合して、これから少しずつ身体を動かそうと…」

「お義父さん、困りますよ」


 美代子さんが自分の言葉をぴしゃりと遮る。そして一歩踏み出すように近寄ると、自分にしか聞こえないよう小声で捲し立てた。


「あの人、大窪さんじゃないですか。ご近所付き合いするにしたって、人を選んでいただかないと困るんですよ」

「は…?」


 美代子さんの言葉の意味が計り知れないまま、私は大窪さんを振り返る。


 だが、もうそこに彼は立っていず、いつもの早足でタッタッタッと道路の向こうへ走り去る姿が小さく見えていた。

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