第20話

「お、お、大窪、さんっ…!」


 精いっぱい張り上げたつもりの声は、情けないくらいに掠れていて、彼が吐いている息遣いに比べればひどく窮屈だった。


 それを背中越しに感じ取ったらしい大窪さんはすぐさまくるりと振り返ると、自分との間にできてしまっていた少しの距離を慌てて駆け戻ってきた。


「ああ、すみません。ついうっかり、二週目に入ろうとしてしまいました。大丈夫ですか?」


 本当にそのようらしく、彼の表情に他意は見受けられない。自分は苦笑いを浮かべながら、首を緩く横に振った。


「残念ながら、限界のようです…ははっ…」

「そうですか。じゃあ、あそこで少し一服して、それから昼飯にしましょう」


 そう言うと、大窪さんはジョギングコース上の脇にいくつか点在されている高さ五十センチほどのコンクリート製の円柱の一つへと自分を促した。


 自分にとっては程よい高さの円柱なので、そこへ座って休めという事だろう。促されるままにそこへ座れば、大窪さんも隣の円柱へとゆっくり腰を下ろして空を見上げた。


 つられて、自分も空を見上げる。


 実にいい天気だ。久しぶりに見上げた空は実に青々としていて、点々と浮かぶ雲はきれいな純白色で。


 運動と呼べるか怪しいが、これもまた久々に身体を動かして軽く汗を流したせいか、堤防の上を駆け抜けていく風の流れが何だかひどく心地よい。


 自然と、口から言葉が漏れた。

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