第19話

それどころか。


「だったら、最初はウォーキングにしましょう。散歩だと思って、気楽に付き合って下さいよ」


 などと言って、あの穏やかな笑みを向けてくるので、ついに断りきれなくなった。


 どうもダメだ、自分は彼の笑顔に弱い。




「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」

「……」


 ウォーキングも初めてでしょうから、今日は近くの堤防を一周歩くだけにしましょう。


 大窪さんにそう言われた後、自分には到底似合わないと思えるユニフォームと短パンに着替えさせられた。


 その上で連れてこられたのは、正治の家から二十分ほど歩いた河川敷にある堤防だった。


 さほど清らかではない川の周囲をぐるりと囲むように造られただけの堤防には、ジョギングコースと銘打った道路部分も伴っていたものの、時間帯のせいかまるで人気(ひとけ)がない。


 ウォーキングを始めて十五分ほど経ったが、すれ違ったのは気だるそうに小型犬と散歩をする主婦らしき女性一人だけだった。


 自分の前を軽快に歩く大窪さんは、歩幅同様に両腕を大きく振って、実に楽しそうに息を吐いている。そのうち、自分の事など忘れて走り出しそうだ。


 一周目は何とかついていけていたが、二周目に差し掛かる頃になって限界が来た。


 つい立ち止まってみれば、慣れない事をしたせいで両膝が小刻みに笑っている。


 自分はそろそろと顔を上げ、さらに進もうとする大窪さんに声をかけた。

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