第16話

食堂の女主人が運んできた二つのカツ丼は、それはそれは大きなものだった。


 まずは、丼の大きさが尋常ではない。普通の約二倍はあろうかというものに、これまた大きなロースカツがどんと鎮座している。これではおそらく、中に埋もれているごはんも相当な量だろう。


 思わず、うっと息を詰まらせてから、自分は前方に座っている大窪さんをそろそろと見やった。


「あの、大窪さん…大盛りを頼んだのですか?」

「いいえ、並盛りですよ。これで五百円なのですから、安くてお徳でしょう」


 いただきます、とていねいに両手を合わせてから、最初の一切れに向かって勢いよくかぶりつく大窪さんはやはり雄々しく、若々しい。


 自分も同じように手を合わせ、いただきますと言ってから頂戴した。うん、うまい。


「どうです?うまいでしょう?」

「はい、とても。ですが、食べきれるかどうか…」

「ここのカツ丼を完食できるようになれば、それは健康な証拠です。私など、もう二年もここに通いつめてるんですよ」


 そう言って大窪さんは、ちらりと厨房の方に視線を向ける。開けた造りになった厨房にいる女主人が大窪さんの視線に気付いて、苦笑混じりの大声で言った。


「…全く。うちの自慢のカツ丼は、大窪さんにとっちゃサプリメントみたいなものかね?あれだけ走りこんでから来るくせに、本当感心しちゃうよ~」


 その言葉に、大窪さんは照れ臭そうに黒い頭髪を掻く。


 ふと聞いてみたくなって、自分は大窪さんに言った。

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