第113話
両足をどかりと組んだ宏樹の姿が見える。ズボンの裾がわずかに浮いていて、昨日まであったはずの右足首のテーピングがなくなっていた。
「前嶋」
「ん?ああ…」
私の視線の先に気付いて、宏樹はほんのちょっと口元を緩めながら右足首をそっと撫でた。
「もう大丈夫だよ。昨日の試合の後でちょっと痛んだけど、今はもう何ともない」
「あ…」
「そんな顔するなよ」
そんな顔、とはどんなものだったんだろう。この部屋には鏡がない。そう言われても、私は私がどんな顔で宏樹を見ていたのか、全然分からなかった。
何も言えずにわずかに視線を逸らすと、視界の端で宏樹が苦笑しているような気配を感じた。何、笑ってんのと言ってやりたかったが、熱のせいでまた少し渇いてきた口の中からはそんな言葉すらも出ていってくれなかった。
ほんの数秒が嫌に長く感じられる。何故か鼓動も速い。たぶん、熱のせいだ。早くこいつに帰ってもらって、ゆっくり眠ろう。そう思った時だった。
「…今日、クラスの皆と話し合いをしたんだ」
宏樹のその言葉に、全身がびくりと震えた。風邪による悪寒のせいなんかじゃない事は分かっていた。
私は慌ててベッドの上で身体を反転させ、宏樹に背中を向ける。それでも構わずに、宏樹は一方的に話し続けた。
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