第111話
重くなった服の上から、身体をごしごし擦ってみる。無駄だと分かっているのに、止められない。それでも、やらずにはいられない。矛盾した思いと動きが、私を支配しようとしていた。
「…汚い、全部汚いかも…」
特にここは念入りにと思いながら左腕に触れた時、ふいにあいつの目を思い出した。
あれは決して私を憐れんでいたり、蔑(さげす)んだりしてるような目じゃなかった。むしろ、理解してくれてる目だったような気がする。私の傷を自分のもののように捉えて、そのまま受け入れているような…。
いいや、そんなはずない。水を被ったまま、私は頭を大きく横に振った。
全く、何をバカな事を考えてたんだろう。そんなはずないじゃない。あいつは変な奴だけど、私とは違う。私みたいな奴とあいつは、全然違う。
降ってくる水のシャワーを、少し顔を上げて受け止める。バチバチと顔に当たってくる感触が、何だか何度も殴られているようにも感じられた。
その感覚をずっと味わっていたくて、小一時間ほどそうしていた。仕事から帰って来たお母さんに止められるまで、ずっと。
翌日の月曜日、私は見事に風邪をひいて学校を休んだ。
例によって、朝迎えに来た宏樹がお母さんからその旨を伝えられた時、こう言ってきたのが廊下越しに聞こえてきた。
「じゃあ今日の放課後、お見舞いに伺いますから」
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