第110話
この時のあいつは、私がどういう奴なのか分かっていなかった。私がクラスでどういう存在なのか、これっぽっちも知らない。だから、そういう事が平気で言えるんだ…。
それ以上はもう一言も話さずに、私は逃げるように足早に病室を出た。潜り抜けたドアの向こうから「理香、待ってよ!」と焦ったように言うあいつの声が聞こえてきたけれど、無視して廊下を走った。
走って走って、家までただひたすら走り続ける。温かい五月の空気が身体中にまとわりついて、汗の粒が肌のあちこちに浮かんでくる。気持ち悪い、心からそう思った。
家に着いて、玄関の中へと飛び込んで、そのままお風呂場に直行する。
いつもなら裸になってからシャワーの栓を捻り、お湯を出しっぱなしの状態で左腕をゆっくりと軽く切っていく。お湯のせいで大げさに流れているふうに見える赤い色に安心していた。
だけど今日は服を着たまま、勢いに任せてシャワーの栓を捻った。しかも水のまま。
一気に降ってくる水の線が、服をじっとりと重くさせていく。さっきまで身体中にまとわりついていた汗は流れていくけれど、気持ち悪さは全然消えてくれなかった。
当然だと思う。その気持ち悪さは、私自身なのだから。
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