第109話
「な、んで…」
何で、あんたにそんな事が言えるの?ついこの間、会ったばっかりじゃん。何にも知らないくせに、偉そうな事言わないでよ。
頭の中では、こんな言葉が何度も何度も繰り返し浮かんでいる。それなのに、喉の奥が貼り付いてしまったかのように動かなくて、言葉が声になって出ていってくれない。
何だか、少し苦しくなってきた。息まで詰まってしまったみたいな苦しさに似ているのに、それでも私はあいつから目が逸らせない。
一方で、あいつも私から…いや、正確に言えば、私の左腕から目を離さなかった。
最近はサボりがちだが、それでも何度も切り刻んで傷付けた左腕の傷痕は、まだしっかりと残っている。うっとうしいくらいに巻き付いている包帯を取ってしまえば、よりはっきりと見えるに違いない。
無意識に、私は左腕を背中の向こうに隠していた。これ以上、あいつに見られたくないと思ったからかもしれない。でも、どうしてそう思ったかまでは分からなかった。
「理香」
まだ掛け布団を抱きしめるようにしながら、あいつが言った。
「ダメだからね、自分をそう簡単に嫌いになったら」
「え…」
「自分自身を嫌って認めない人を、誰も認めてくれないし好きになってもくれないよ。ダメだよ、理香はそんなになっちゃ。今の自分を、もっと好きにならなきゃ」
「…ごめん、それはマジで無理」
謝る必要なんかどこにもないのに、気が付いたらそう答えていた。
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