第108話
誰のものかすぐに分かって、ゆっくりと顔を持ち上げてみれば、目の前のベッドの上にいるあいつが、やたらゼイゼイと息を切らしながらこっちを見ていた。
あいつの骨ばった細い右腕が、掛け布団の上でだらしなく伸ばされている。とても簡単に、あいつが枕を投げつけてきたんだと分かった。
「え~と…大丈夫?」
私が呟くのをやめて顔を向けた途端、枕を投げつけてきたのは自分のくせして、あいつは非常に困ったような表情を浮かべる。
そして、両目をきょろきょろと左右に動かした後、とても間抜けな声でそう言った。右腕はまだだらしなく伸びたままだ。ちょっぴり腹が立って、私は言葉を返した。
「何すんの」
「いや、あの…君があんまり僕の声を聞いてないっぽいみたいだったから、つい」
「だからって、枕投げる?普通…」
「ごめん。でも、これで分かったでしょ」
「何が」
私がそう言うと、あいつはやっと伸びたままだった右腕に力を入れて、腰の辺りまでしかなかった掛け布団をゆっくりと胸元まで引き寄せる。
そして、その掛け布団を両腕でしっかりと抱き留めるようにして押さえながら、
「君が、透明人間なんかじゃないって事。だから、もう自分を傷付けちゃダメだよ。君は、もっと自分を好きになってあげなきゃ」
と、言った。その目は、私の左腕を捉えているように見えた。
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