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第106話

「あ~…宏樹の奴、六位か。惜しかったなぁ」


 病室のベッドの上でビデオカメラの液晶画面を覗き込みながら、あいつが心底残念そうに呟く。私は、ベッドからほんの少しだけ離れた窓枠に背中を預けて、それをぼんやりと聞いていた。


 宏樹の調子が良かったのは、予選の時だけだった。予選で無理に一位を取ったのが仇となり、右足首に痛みが戻ってきてしまったらしい。痛み止めの薬を飲んで辞退は避けられたものの、それでも結局本来の力を出し切れずに、ビリで終わってしまった。


 クラスの誰かの言葉が思い出される。あの予選が決勝だったら良かったのに。そしたら、宏樹の努力は最大限に報われるものになって、クラスの皆ももっと喜んだのに…。


 宏樹の背中がグラウンドの外周からゆっくりと遠ざかっていく所で、映像がブツンと途切れる。それと同時にあいつは小さな液晶画面から目を離して、ふうと長くて細い息を吐きながら、何故かたどたどしい手付きでビデオカメラを枕元に置いた。


「ありがとう、理香」


 あいつが言った。


「まあ、結果は僕の希望とはちょっと違ってたけど、あいつらしい走りだったよ。見られて良かった。手間をかけさせてごめんね」

「…別に。大した事じゃないじゃん、こんなの」

「あ、そういえば宏樹は?一緒に来なかったの?」

「後藤と一緒に診察室」

「そう…」


 あいつが、じっと私を見てくる。その視線が何だか痛くて、私は窓枠の向こうへ顔を背けた。

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