第104話
私は、まだビデオカメラを回し続けていた。
無事に予選は一着で通過できたんだし、後は決勝まで待ってればいいはずなのに、ビデオカメラを下ろす事ができない。顔中がちょっと汗だくになっちゃってる今の宏樹の顔なんか撮る必要ないのに…。
そう思っていたら、いきなり背中の向こうから惜しみない拍手が起こった。
「…すげー!前嶋の奴、逆転で一位かよ!」
「ああ、もう!これが予選なのがもったいないよね~!」
「本当に怪我してるの、前嶋君?何かカッコいい!!」
「お~い、前嶋!!決勝もその調子で頑張れよ~!」
録画スイッチを押したままで、私は肩越しに振り返った。すぐ見えたオレンジ色の座席で、クラスの皆がそれぞれ宏樹の健闘を称(たた)える言葉を送っていた。
皆、とてもいい笑顔だった。私のせいで捻挫をして、もしかしたらこの大会の出場さえ危なかったのに、それを苦にもしないで予選を勝ち抜けた宏樹の姿に、皆がとても喜んでいる。
あれ?と思った。何だか、皆のこんな笑顔、前にも見た事あるような気がする。いつだっけ。いつだったっけ?
ダメだ、思い出せない。ほんのちょっと前の頃のはずなのに、ものすごく遠くになってしまっていて、全然思い出せない。
何で、どうしてと焦るうちに、ハッと気付いてしまった。私のせいだと。私が『それ』を始めたからだと。
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