第103話
最初の二、三秒くらいは全員がほぼ横並びになっていた。50メートルを過ぎた辺りで一番最初に頭一つ分飛び出してきたのは、第二レーンの選手だった。
そのままぐんぐんとスピードが乗ってきて、すぐに身体一つ分の差が生まれる。
あと数秒もすれば彼が一着でゴールするのは明白で、それを自覚した本人も決勝の為の体力温存を考えての事か、ゴール手前の数メートルを流すかのようにわずかにスピードを緩めた…その時だった。
「…くうっ!」
ふいに、宏樹の振り絞った声が聞こえてきたような気がした。そして、それと同時に宏樹の身体と第二レーンの選手の身体がぴったりと並んでいるのがビデオカメラのレンズに映っていた。
第二レーンの選手の一瞬驚いた顔をすり抜け、必死の形相の宏樹はゴールに向かって全身を突き出していく。当たり前だけど、前しか見ていない。貪欲に、がむしゃらに、ひたすら前を見て走り抜けていく。
そのおかげか、ほんのわずかコンマ数秒の差で、その予選第一組の一着は宏樹となった。ゴールラインを通り抜けていった時の宏樹は、さっきまでの釣り上がった目はもうしていなくて、どこかほっとしたような表情で息を切らしていた。
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