第102話
事前に聞いていた通りだと、100メートル走の予選は六人一組で二回行われる事になっていて、上位三人が決勝に進めるらしい。
宏樹の最初の出番はその予選の第一回目からであり、外周コーナーにあるスタート位置に立つその表情は、いつもと違って目が釣り上がっているように見えて、ほんのちょっとだけ怖く見えた。
それでも、私はビデオカメラを回し続けた。
頭の中では、二人の男子の言葉がぐるぐる回っている。
『宏樹の試合、一度も見逃したくないんだ』
『予選から飛ばすつもりでいるから。遼一の為にもばっちり撮ってくれよ』
『佐野がまた学校に来れるようになる為にも、今日で全部払拭させてやる…』
全部払拭…、どういう意味なんだろう。
ほんの一瞬、そんな宏樹の言葉を反芻させていたら、ピピーッと甲高いホイッスルの音。
慌ててビデオカメラを覗き直してみると、スタート位置に立っていた宏樹や他の学校の選手達はすでにクラウチングスタートの体勢を取って、片膝を付いていた。
宏樹は一番外側の第六レーンにいた。陸上の事なんか今まで全然興味なかったから、いまいち分からないんだけど…何だかあそこが一番不利っぽくない?
そんなふうに思った直後に、辺り一帯に火薬が甲高く弾けるピストルの音が短くこだまして、宏樹達が走り出していた。
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