第101話

その自分のバカさ加減にいたたまれなくなって、またビデオカメラを落としてしまおうかなんて思ったが、それが大きく形になる前に、ふいにあいつの言葉が頭の中で甦った。


『本当に頼むよ。宏樹の試合、一つも見逃したくないんだ…』


 言葉と一緒に、乞うように見上げてきたあいつの顔まで思い出してしまう。本当にとても必死で、それ以外は何も望まないと言わんばかりの。


 何でそんなに必死なんだろうと変に思う反面、まだ三回しか会っていないあいつのあの様子が気になって仕方ない。


 もしかして、あいつも陸上の選手か何かだったのだろうか。そうなら、あの時病室で見ていた雑誌も納得いくけど…。


 そんなふうにあれこれと考えていたら、いつの間にか開会式は終わってしまっていた。


 すぐさまそれぞれの場所で競技が始まる。グラウンドの内側の方では走り高跳びと砲丸投げの準備が進められていく中、外周コーナーは今から100メートル走の予選が始まるという旨のアナウンスが、スピーカーから割れる音と共に流れていた。


『…俺、予選から飛ばすつもりでいるから。遼一の為にもばっちり撮ってくれよ、安西』


 宏樹のそんな言葉を思い出しながら、私は外周コーナーの方に出向いていく彼の姿をレンズ越しに追っていた。

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