第100話

グラウンドに整列し始めた選手達の、やや右寄りの列の真ん中辺りに、宏樹はいた。


 先ほどのジャージの上下を脱ぎ捨て、タンクトップに短パンという格好になった宏樹の身体付きは、普段見ている学校の制服の上からではよく分からなかったが、肩や腕が力強く引き締まっていて、無駄な筋肉は全くないように思える。


 特に、両足はすごかった。ビデオカメラのレンズ越しに見ても分かるくらい、しっかりとした弾力が付いているとてもきれいな両足で、短距離走を専門にしている宏樹にはよく似合っていた。


 だが、カメラの目線を少し下に下ろしてズームアップした時、思わずドキッとした。宏樹の右足首に、しっかりと固定して巻かれている茶色のテーピングが見えたからだ。


「何よ…」


 いつの間にか、私は一人呟いていた。


「捻挫、まだちゃんと治ってないじゃん」


 一週間前に比べれば少しは痛みや腫れもマシになってるだろうけど、それは完治した訳じゃない。あくまで、マシになってる程度なんだ。


 そういえばここに来るまで、宏樹は「まだ痛い」とも言わなかったし、右足を引きずるなんて仕草も見せなかった。あまりにも普通に、そしていつものように私の横に立って歩くので、テーピングを見るまで捻挫の事なんかすっかり忘れていた自分がバカみたいだ。

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