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第96話

週末、陸上大会の日となった。


 最後の抵抗として、わざと寝坊したふりをして行けなかったという言い訳を作るつもりだった。それなのに、本人はもうすっかり習慣づけてしまったせいなのか、朝一番で私の家まで迎えに来た宏樹が心底憎らしかった。


「おはよう、安西。今日はよろしく頼むな」


 そう言って、部活のジャージ姿の宏樹は手のひらの中に収まる程度の大きさのビデオカメラを私に差し出してくる。一瞬、わざと落として使えなくしてやろうかと思ったが、次の宏樹の言葉に身体が硬直した。


「ああ、それから今日はクラスの皆も呼んでるから」

「え…」

「佐野は来るかどうか分かんないけど、他は全員来るってさ」


 呼吸も心臓も止まるかと思った。


 LHRを黙って抜け出してから、ロクに教室に行っていない。宏樹が毎日迎えに来るから仕方なく学校には行っているが、教室には向かわずに保健室か図書室でダラダラ過ごしている。


 後藤から何かしら話は聞いているのか、自習である程度の勉強さえしていれば、保健室の先生や図書室の司書の人は何の文句も言わずに置いてくれる。とても気楽で面倒臭くないから、別にずっとこのままでもいいかなと思い始めて、まだ数日しか経ってないというのに…。


 また余計なおせっかいをした宏樹に腹が立って、朝っぱらから私は怒鳴った。

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