第94話
「ちょっと、何すんのよ」
「いいからいいから」
あまりにも軽い口調でそう言いながら、宏樹は私の身体をぐいぐいと押す。そして、あいつのベッドのすぐ脇まで押しやると、ふいに言った。
「俺、今度の大会きっちり出るから。で、その時のビデオ係なんだけど、今回は優衣ちゃんにじゃなくて、この子…安西に頼もうと思ってる」
私の口からは「ええっ!?」、あいつの口からは「はぁ~?」と言った声が、同時に漏れる。この時のあいつの気持ちがどんなものかは知らないが、私の頭の中では、優衣ちゃんって誰とか、何で私がそんな事をしなきゃならないのとか、そんな疑問だけがぐるぐる回る。
案の定、私より先にあいつが文句を言い始めた。
「な、何でだよ!いつも優衣に撮ってもらってるんだし、次の大会もそれでいいじゃないか。何で、その子に…」
「極めて単純な事だよ」
宏樹が答える。
「俺が安西に撮ってもらいたいから。俺の走ってるところ、安西に見てもらいたいから。以上」
「以上って…あんたねえ、さっきから何の権利があって私を」
「権利はないよ。むしろ、今から欲しいと思ってるくらいだから」
続いて文句を言おうとした私の言葉を遮って、宏樹は訳の分からない事を口走る。この間から、いったいどういうつもりなのだろう。この時の私には、宏樹が何を考えているのかさっぱり分からなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます