第91話
「ねえ前嶋、今日はもう帰ったら?」
「……」
「家でおとなしくして、さっさと捻挫治せばいいじゃん。何であいつの所行くの?あいつに恨み事言われるのもウザいんだけど」
「それは安心しろよ。今日はそんな事させないから」
ほんの少しだけ口の端を持ち上げてから、宏樹は言った。何故か自信たっぷりな口調で、私の手を掴む力を強めながら。
宏樹に引っ張られるようにして、私達は三階分の階段をゆっくりと昇っていった。三階は外科と神経外科にかかっている入院患者の病棟となっていて、「あいつの部屋は一番東端なんだよ」と言いながら、宏樹は廊下を進んでいく。私は無言でついていった。
一番東端の病室は個室になっていて、壁にかかっている一人分のプレートには『奥寺遼一様』と書かれている。
「ふうん、個室なんだ。贅沢な奴」
私がそう呟いている中、やっと私の手を離してくれた宏樹は、ドアの横に備え付けられている手指用のアルコール消毒液をたっぷりと自分の両手にかけているところだった。
「安西。両手を消毒してくれ」
「え?面倒臭いんだけど」
「頼むよ、遼一の為なんだ」
やたら真剣にそう言うので、仕方なしに消毒液のポンプを押す。ほんの少し左手首の包帯にかかり、傷にしみたせいでちょっぴり痛かった。
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