第四章 -十七歳-

(1)

第84話

「どうしたんだよ、その足」


 もう一度同じ言葉を繰り返しながら、あいつは宏樹に近付いていった。


 その顔は焦りの色が浮かんでいるのに、それに反してあいつの松葉杖を動かす腕は、ひどくゆっくりだ。普通に歩く速度より遅いんじゃないかって思えるくらいに。


 そんなあいつの視線は、宏樹の右足首に注がれている。宏樹はずいぶんバツの悪そうな顔で「遼一」と呼んだ。


 ふうん。あいつ、遼一っていうのか。そう思っていた私の耳に、あいつの少し大きな声が飛び込んできた。


「まさか、怪我したのか!?何で!?大会は一週間後だろ!?何があったんだよ!?スタートに失敗したの!?それとも転んじゃったのか!?」


 矢継ぎ早にそう言い連ねていくあいつの勢いに押されてか、それともその一つ一つに「全部違う」と言うタイミングを図れないのか、珍しく宏樹はオロオロして言葉を吐き出す事ができない。


 私は少しだけ深く息を吸い込んだ。そして、宏樹の代わりに言ってやった。


「私のせいよ」


 短くそう言えば、宏樹とあいつの顔が一斉にこちらを向く。何故かあいつより、宏樹の方が驚いた顔をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る