第81話
『五月九日、木曜日。天気は昨日と一緒。ちょっとだけ、雲が多い気もするけど。
朝食にキュウリの酢漬けが出た。酸っぱいものは苦手だって何度も言ってるのに…看護師さんに半ば見張られてたから、お茶と一緒に何度も丸飲みした。やっぱり酸っぱかった。
今日は診察が休みだから、午前中はずっと屋上で景色を眺めていようと思ってた。でも、行った途端、心臓が止まるかと思った。女の子が屋上の縁から飛び降りようとしてたんだから。
何とか笑顔を作りながら「何やってるの?」なんて話しかけたけど、いつ心臓が止まるか不安で仕方なかった。その子より先に、僕が死んじゃうとも思った。
その後、女の子の左腕にすごい傷痕が見えた。この子がリスカ癖で入院してきた子だなって思ったら…やっぱりムカついた。
だから、言ってやった。「どうしてそんな事するの?」とか「何にも得なんかしない」とか。
すぐに、すごく後悔した。ほんの一瞬だったけど、その子がとても辛そうに顔を歪めたから。
何かあったか知らないけど、自分の身体を傷付けなきゃいられない理由があったかも。それを知らないくせに責めた僕が間違ってたかもしれない。
だから、これはきっと罰だ。いつの間にか、僕の背筋は思っていた以上に固まり始めていて、あの時足元に転がった松葉杖を取るのに小一時間もかかってしまった。
今度またあの子に会う事があったら、きちんと謝ろう。
もうすぐ宏樹がお見舞いに来る。今日の事を話したら、どんな顔を見せるかな?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます