第79話
横を振り向くと、宏樹の方も何だか緊張しているような面持ちをしていた。
頬の辺りがぴくぴくしていて、それを隠そうとしているのか下唇を軽く噛んでいる。
そうだった。私だけじゃない。宏樹も、あいつの唯一無二の親友として知りたいと思っている。あの頃、あいつにどう思われていたか…。
「うん」
私は頷いた。
「お願い、宏樹。私も一緒に読むから」
「ああ」
宏樹はゆっくりと日記帳に手を伸ばし、しっかり掴み取った。そのまま両手で包みこむように持って、自分と私の間まで運んでくる。ほんのちょっぴり薄汚れた、セピア色の表紙カバーが目の前いっぱいに広がった。
「遼一、読ませてもらうからな。後で文句言ったり、これは取り消しだなんて言うなよ?」
日記帳に向かって、宏樹が言う。昔のように、少しふざけた口調で。
そして、宏樹の指が表紙カバーをゆっくりとめくって、日記の一ページ目が現れる。こんな文章から、始まっていた。
『五月七日、火曜日。天気は晴れ時々曇り。久々に家で倒れて、気が付いたら病院の個室だった。せっかく家族皆での生活が半年を超えようとしていたのに、全くついてない。お祝いのチキンステーキ食べ損ねた。せっかく楽しみにしてたのに、残念。これで何回目の入院になるんだか…。優衣にもまた泣かれたし、そろそろ最後になっちゃうのかな。そう思うから、今日から日記を書く。頑張って続けようと思う。僕の手が動くまでは…』
少し震えている文字。文字通り、頑張って書いたんだと思う。
そして、日付は五月七日。私とあいつが初めて会う、二日前から始まっていた。
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