第78話
渡り廊下を進んで、小さな庵の中に入る。
障子張りのその庵の中は八畳ほどの畳部屋で、右隅に小さな机と二段しかない書棚があり、後はインテリアの意味合いで飾っているのだろう、複雑な形をした陶器の瓶が上座にあるだけだった。
その上座には座布団が二枚敷かれていた。先に庵に入った優衣さんは、そこには目もくれず、何もない下座の方に腰を下ろし、正座した。
「あちらへどうぞ」
「え、でも…」
「お願いします」
短くそう言いられてしまっては、とても断り切れない。宏樹も困った顔をしていたが、やがてゆっくりと座布団の一枚の上に腰を下ろす。私もそれに従った。
「それじゃあ…」
優衣さんが、ふっと腕の力を抜いて、あいつの日記帳を私達の目の前にある畳の上に差し出してきた。
「読んであげて下さい、ここにあるお兄ちゃんの素直な気持ちを…」
ごくりと唾(つば)を飲み込む。何だか緊張して、また喉がからからになってくる。気持ちばかりが焦って、日記帳に伸ばすべき腕が上手く動いてくれない。
そんな時、ふいに宏樹の声が聞こえてきた。
「理香、俺が取っていいか?」
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