第77話
あちらの方でお見せします、という優衣さんに連れられて、私と宏樹は円行寺の中に入った。
本堂の横の廊下を通り、角を二回曲がる。すると、本堂と離れの庵(いおり)を結ぶ小さな橋のような渡り廊下が見えてきた。
「今日は、あちらの庵もお借りしたんです。お二人にこの日記をゆっくり読んでいただきたくて」
先に立って歩く優衣さんが、振り向きもせずにそう言う。胸に抱いている日記帳をあいつのように思っているのか、その手にやや力がこもっているのが分かった。
私は、知りたいと思った。
確かにあの頃、私達は一緒だった。たった三ヵ月だけだったが、私には奇跡のように眩しい日々だった。あいつも同じように感じてくれていると、信じて疑わなかった。
でも、本当はどうだったのか。いつも笑顔でいてくれた分、私や宏樹にも言えない何かを抱え込んでいたんじゃないだろうか。眩しかったのは私だけで、あいつにとっては違う何かがずっと見えていて、それが辛かったんじゃないだろうか。
七年も経ってそれを知りたいと思うのは、本当に滑稽な事なのかもしれない。遅すぎるのかもしれない。
それでも、あいつの事を知りたかった。あいつの心に、触れたい。心から、そう思った。
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