第三章 -二十四歳-

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第61話

「…理香?おい、理香!?」


 突然、降ってきたような宏樹の大声に、私はハッと我に返った。


 気が付くと、宏樹の大きな両手が私の両肩を後ろからしっかりと支えてくれている。目の前にあるのは、さっきまでと変わらない2年A組の教室の風景で…。


「大丈夫か?」


 素早く私の前に回って、宏樹が顔を覗き込んできた。


「何で?」


 私がそう答えれば、宏樹の表情がますます不安と心配の色に染まっていく。


 小さく息を吐いて、宏樹が言った。


「教室を見て何秒も経たないうちに、お前、ふらついたんだよ」

「私が…?」


 あまりよく覚えていなかった。


 その代わり、鮮明にあの頃の…七年前の事が脳裏に浮かんでいた。


 自分がこの教室で皆に何をしてきたか。特に、蒔絵にどれだけの絶望を与えてきたのか。


 そして、あいつとの出会い。


 あいつと出会っていなかったら、今の私はいなかった。あの頃の間違いに全く気付けないまま、今よりもっと最低で最悪な人間になっていたと思う。


 そんな大切な思い出の始まりに、いつの間にかトリップしていたんだろう。宏樹に支えてもらわなければ、自分で立つ事すらできないほどに。

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