第58話

そっと目を開けて、少し上を見上げてみれば、そこにいたのはやっぱり宏樹だった。宏樹はその両腕で私をしっかりと抱え、まるで親の仇を見るかのように女の子達を見据えていた。


 何で?そう思った。あんた、『それ』のターゲットになっていても、そんな目で相手を見なかったのに。どうして…。


「どうしてよ、前嶋君!?」


 そして、同じふうに思ったのか、女の子達も口々にそう言ってきた。


「前嶋君、変だよ!おかしいよ!」

「おかしいのはお前らだ、もういい加減やめろ!こんな事、無意味だ!」

「意味ならあるよ、理香が全部悪いんだから」

「悪いのは安西だけじゃない。俺も含めて…全員悪い!」

「何それ、意味分かんない。そんな事より、こっちに理香を渡しなさいよ!」


 そう言った女の子達の一人が、私を抱えた宏樹に掴みかかる。宏樹は私を守るように背を向けて、そのまま階段の方に向かおうとした。だけど。


「うわっ…」

「え…」


 いきなり視界がめちゃくちゃになった。例えるなら、何度も回転を繰り返すジェットコースターに乗っている時みたいな感じ。


 たぶん、私か宏樹のどっちかが階段を踏み外したんだ。そう分かった時には、私達二人の身体は階段の一番下まで落ちていて、女の子達の甲高い悲鳴が響いていた。

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