第55話

女の子達は、口々に言ってきた。


「理香、大丈夫~?風邪、こじらせてたんだってね~」

「あれ~、まだ顔色悪くない?保健室に連れてってあげようか?」


 さっそく、『それ』を始めるつもりなんだなと思い、無意識に唇をギュッと噛み締めてしまう。


 だけど、女の子達の一人が私を連れ出そうとして伸ばしてきた腕を、宏樹がバシリと乱暴に叩き落とした事で、空気が一変した。


「…やめろ」

「え?」


 腕を叩かれた女の子は痛みに顔を歪めながらも、不思議そうに宏樹を見上げる。他の子たちも、皆そんなふうに宏樹に視線を送る。


 宏樹は、自分の片腕を私の前にかざすようにしながら、教室中に響く大声で言った。


「お前ら、やめろ!もうやめろ!!」

「ちょっ…何言ってるの、前嶋君」


 女の子達の誰かが言った。


「理香のせいで、クラスがどんなにめちゃくちゃだったか知ってるでしょ!?理香のせいで、佐野は学校に来なくなったんだよ?」

「そうだよ。だけど」


 宏樹は、皆をぐるりと見渡してから、さらに言った。


「ここにいる全員が、全部同じだろ!だから、もうやめろ!」


 朝のホームルームの時間が近付き、後藤が教室に来るまで、宏樹は何度もそう叫び続けた。


 私はそれを、冷めた目で見てた。何も変わらないのに、そう思いながら。


 そして案の定、次の日から宏樹も『それ』のターゲットになっていた。

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