第54話

学校に着くまで…いや、二年A組の教室の引き戸の前まで、宏樹は私の横にぴったりと貼り付くようにして歩いていた。


「いい加減離れてたら?」


 私は言った。


「じゃないと、あんたも巻き込まれると思うんだけど」

「いいよ、上等だよ」


 宏樹が答える。


「むしろ、今日からそのつもりだった」


 と、宏樹は私の横に立ったまま、教室の引き戸を思い切り強く引いた。


 バンッと大げさなくらいに響いたドアの音に、クラス中の視線が一気に私と宏樹に注がれる。全員が私達をそんなふうに見るのに、たっぷり十秒くらいはかかった。


 最初に反応しだしたのは、何人かの男子達だった。


「おいおい、前嶋~。女の趣味、意外と悪いじゃん」

「そんな性悪女がタイプですか~?」


 これらに続いて、残りの男子達や具体的な『それ』には参加してないおとなしめの女の子達の、クスクス笑う声が聞こえてくる。


 次は、『それ』の実行グループに入っている女の子達が動いた。教室の真ん中辺りで会話してたけど、私達を見るとそれを中断して、ぞろぞろとこちらにやってきた。

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