第44話

「できる限り目立たないように治療を進めていきますが…今はお嬢さんの心のケアが必要だと思います。少し貧血気味のようですし、休養も兼ねて二、三日入院という形で様子を見ましょう」


 もっともらしい医者の説明に、お父さんとお母さんはうんうんと相槌を打っていく。


 逆に、私はちっとも理解できなかった。


 何それ?休養?心のケア?何で私に、そんなものが必要なの?


 やめてよ。私をそういうふうに扱わないでよ。私はそんなんじゃない!


 イライラして、しょうがなかった。


 何もかもが気に入らない。


 「もう大丈夫よ」と優しく声をかけてくるお母さんも、その横で何か言いたそうだけど敢えて黙っているお父さんも、分かったふうな事を言ってくる医者も、クラスの女の子達も、前嶋宏樹も、誰も彼もが。


 二十四時間看護体制の病院だったから、緊急性を伴わない場合以外は家族の付き添いを断っていた。


 うちの両親も例外じゃなくて、「後は私達が目を離さないようにしてますので」という数人の看護師に言われて、二人はしぶしぶといった感じで帰っていった。


 消灯時間になって、私はベッドの掛け布団を頭から被ってイライラと戦っていた。


 そのせいでなかなか寝付けず、ナースステーションのすぐ前だったせいか、開けっぱなしの病室のドアの向こうから看護師達のひそひそ話が聞こえてきた。


「え~、リスカ癖があるの!?今日入院してきた女子高生…」

「うん、くれぐれも刺激しないよう穏便にって先生から…。何かね、メンタル弱そうなんだって」

「本当?じゃあ、私達が優しくしてあげなきゃね」


 私の中で看護師達も気に入らない連中のリストに加わった。

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