第42話



「…理香っ!!」


 お母さんが私の名前を呼ぶ大声で、ハッと目が覚めた。


 最初に視界に飛び込んできたのは、真っ白くて見覚えのない天井だった。取り替えたばかりなのか、天井に貼り付いてる縦長の蛍光灯がすごく眩しい。


 その光から私を守るような感じで、お母さんの身体が覆い被さってきた。何度も「理香、理香…!」と呼んでいるお母さんは、何故か涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃだった。


「理香…良かった、目が覚めて」


 ずずっと、お母さんが鼻を啜る。何でお母さん、泣いてるんだろう…?


「お母さん」


 私は思った通りの事を口にした。


「何で泣いてるの?何かあったの?」


 すると、お母さんのひゅっと息を飲み込む音が聞こえてきた。


 その次に見えたのは、何か恐ろしいものでも見たような、信じられないと言いたげなお母さんの顔だ。何、その顔。それが娘に向ける顔な訳?


「お母さん?」


 私がもう一度話しかけると、お母さんはハッと我に返った後、「ううん」と首を横に振りながら答えた。


「いいのいいの。嫌だった事は忘れちゃっていいのよ。でも、もう二度とあんな真似しないでちょうだい。お母さん、本当にびっくりしたんだから」

「あんな真似…?」


 何の事だろうと思いながら少し身を捩ると、途端に左腕に違和感を覚えた。特に手首の辺りが。

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