第40話

「痛いっ!!」


 思わずそう言ってしまったら、宏樹の目が大きく見開き、びくっとその肩が揺れた。


「あ…わ、悪いっ」


 宏樹の手の力がすぐに緩む。その隙に私は左手を引っ込め、背中の後ろに隠すようにした。


 痛みはまだびりびりと続いてた。たぶん、乾き切ってない傷の一つからまた血が出てきてると思う。


 それを知られるのが面倒で左腕をそのままに宏樹を睨んでいたら、宏樹は宏樹で少し眉間にシワを寄せて、私を睨み返していた。


 それが怖かった訳じゃないのに、次に出た私の声は少し小さく震えていた。


「な、何よ…」

「安西、お前さ」


 宏樹が低い声で言った。


「今、自分が世界で一番不幸だとか思ってる?だったらそれ、大間違いだから。お前は、皆から倍返しされても仕方ないだろ」

「…は?何それ」

「でも、だからって、それがいつまでも続いていい訳ないと俺は思ってる。だから…皆に謝れ、安西」


 宏樹の言っている事の意味が全然分からなかった。


 今、『それ』のターゲットにされてるのは私なのに。何で私の方から謝らなくちゃいけないの。


 いや、本当は分かってたのかもしれない。ただ、それを簡単に認めたくなかった。認めたら…ますます自分が変になるような気がして、それがどうしようもなくたまらなかった。


「ウザい」


 気付いたら、私は宏樹に怒鳴っていた。


「前嶋、マジでウザい!ムカつく!ただ見てるだけで何にもしてないくせに、何よ偉そうに!!ほっといて!!」


 私は宏樹を置いて、公園から逃げ出した。

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