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第39話

前嶋宏樹とは一年の時から同じクラスだったから、顔と名前は一致していた。


 確か後藤が顧問をしている陸上部に所属しているはず。だけど、それ以上の事は何も知らない。同じクラスというだけで、他に何の接点もなかったからだと思う。


「大丈夫か、安西」


 身体中、上から下まで砂まみれの私を見て、宏樹が私の名字を呼ぶ。控えめに差し出されてきた手には真新しいハンカチが握られていた。


「とにかく、これで顔だけでも拭けよ」

「…いらない」

「え、何で」

「余計なお世話」

「安西」

「前嶋、うるさい」


 私は宏樹の横をすり抜け、砂場から少し離れている公衆トイレにふらふらと向かった。


 早く、早くしないと…。


 その時だった。


「待てよ、安西」


 そう聞こえてきた声と共に、強い力が私の左腕を掴んできた。


 確かめるまでもなく、それは宏樹のものだ。私を呼び止めようととっさに手が伸びたんだと思う。


 でも、もうこの時の私の左腕は普通のものではなかった。確認の為に、もう何度もカッターナイフで切りまくっていて、まだ生乾きのものやかさぶたができてない傷もたくさんある。


 長袖の制服に隠れて見えはしないものの、掴まれた事で痛みがびりびりっと電気のように走った。

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