第36話
「ただいま…」
みっともないくらいに古臭い家の引き戸の鍵を開けて、一応声をかけるけど、お母さんはいなかった。
そりゃそうかと、ほっと息を吐く。まだお昼にもなってないんだもん。仕事から帰っていなくて当たり前だ。
こんな姿を見られずに済んで良かったと思いながら、一気に洗面所まで行く。
狭くて簡素な造りの洗面所に辿り着くと同時に、目の前の鏡の中の自分を見た。
うん、信じられないくらいに惨めな姿の私がいる。
今日の『それ』はトイレならではの水責めだったから、全身ずぶ濡れだ。髪の毛もぐちゃぐちゃにされて、まだ毛先から滴が垂れ落ちている。
何で?何で私だけがこんな目に遭わなきゃいけないの?
冷たいって、やめなさいよって何度も言ってるのに、あの子達はまるで私の声なんて聞こえませんと言わんばかりに、ひたすら面白がって笑ってたっけ。
透明人間でも相手にしてるつもり?私はあんた達の目の前にいるのに。ついこの間まで、あんた達だって『それ』を楽しんでたくせに。
何で?何で、私だけ…?
答えがまるで出てこない疑問だけを頭の中でぐるぐるさせながら、私は制服と下着を脱いで洗面所のすぐ隣の間取りにあるお風呂場に入った。
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