第35話

「どれどれ~?」


 そのうちの一人が腕を伸ばして、私の額に手のひらを当てる。そして、わざとらしい大声をあげた。


「…やだ。理香、少し熱がある!」

「嘘、マジ!?後藤先生。私達、理香を保健室に連れていってもいい?」


 女の子達が軽く目配せした後で、後藤にそう訴えかける。『それ』の事など全く知らない後藤は、いとも簡単に許可した。


「ああ、頼むぞ。お前達」

「は~い」

「任せて~」


 そこで予鈴のチャイムが鳴った。女の子達に私を託したつもりになっている後藤が、足早に廊下を駆けていく。


 その背中をぼんやりと見つめていたけど、次の瞬間、思い切り足を踏み付けられた。


「いっ…!!」


 痛みのせいで思わずしゃがみ込む。その私の頭を、女の子達の誰かががしりと掴んで押さえ付けた。


「何、チクろうとしてた訳?」


 今度は、冷たい声が降ってくる。押さえ付けられた頭を何とか横に振った。


「そんな事、してないっ…」

「そうだよね。言ったところで、どうもならないもんね」


 また、誰かが言った。


「自業自得なんだからさ」


 頭や首元を強引に引っ張られて、無理やり立たされる。そのまま私は女の子達に引きずられていった。


 たぶん、今日は体育館横のトイレだ。この時間はどこのクラスも体育をしていないし、多少騒いでも誰にも聞こえないから…。

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