第34話



「…安西、どうかしたのか?」


 ああ、まただ。そう思いながら、私は肩越しに振り返った。


 私が一人で廊下を歩いていると、大抵、後藤が声をかけてくる。それだけ、今の私を見ているんだろうけど、肝心なところが抜けてるよ。まあ、見抜かれたくもないけれど。


「何で?」


 呟くようにそう返すと、ジャージ姿の後藤は二、三歩分距離を詰めてから、私の顔を覗き込むようにして言った。


「顔色が悪い。あと、足がふらついてるぞ」


 それはそうだろう。最近、ろくに寝てない。朝が来るのが嫌で、外の暗闇が晴れていくのをずっと睨み付けてるんだから。


「具合が悪いのなら、保健室に行ってこい。次の俺の授業は休んでいいから」


 心配そうな後藤の声が頭の上から降ってくるが、正直余計なお世話だ。そんな事したら、ますます教室に戻りづらくなるじゃない。次に何をされるか分からないから、構えようがなくなるじゃない…。


 「ううん、大丈夫」と言おうと顔を上げた時だった。


「…え~?理香、具合悪いの?大丈夫~?」


 思わず、両肩が揺れた。


 後藤の大きな声が教室まで聞こえてきたのか、ドアが勢いよく開いて、何人かの女の子達がこちらに駆け寄ってくる。つい何日か前まで、私と一緒に『それ』を楽しんでいた子達が。

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