第30話
『それ』のターゲットになる回数が一番多かったのは、佐野蒔絵という子だった。
蒔絵は、クラスの中で最も目立たない地味な子だった。
偏食気味で、食べ物の好き嫌いが多いせいか、女子の中で一番痩せ細ってて、いつも教室の隅の席から動かないで本ばかり読んでいる暗い子。
おまけに無口ときたものだから、正直すごく気持ち悪い。もっと言うなら、同じクラスなのも嫌になるくらいだった。
だから、私が朝、教室に入った時、先に蒔絵が来ていて本を読んでいれば、ほぼ100%の確率でその日の『それ』のターゲットは蒔絵になった。
蒔絵を攻撃する時は、とても念入りだった。
無視とか物を隠すなんてのは飽きちゃってた頃だったし、何より蒔絵が反抗する事が少なかったから、他の子にする時より強気になれた。
一番面白かったのは、あの子が一番大嫌いで、見るのも嫌だって言ってるニンジンを大量に買ってきて、それを生のまま無理矢理食べさせようとした時だ。
皮も剥いてない土臭いニンジンを無理矢理口の中に突っ込んでやった時の蒔絵は、みっともないくらいによだれを垂れ流し、何度も何度もえずいた。
そんな姿がもうとにかく面白くて、取り囲んだ皆で笑ってやった。そしたら、押し込んでいたニンジンをよだれと一緒に吐き出した蒔絵が、いきなり大声をあげた。
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