第25話
「…おお。前嶋、よく来たな。前に来てからどれくらいになる?」
「去年の秋季大会以来…でしょうか?すみません。時々はコーチみたいな事もしますよなんて言っておきながら、なかなか顔を出せなくて」
「いやいや、気にするな。県外に出ちまってる上に、今は会社の陸上部でコーチしてるんだったよな?無理強いはできねえよ」
かつての教え子が訪ねていてくれたのがよほど嬉しいのか、後藤先生は陸上部の子供達に自主練を言い渡した後、大きな手で宏樹の肩をバンバンと叩きながら話し続けている。私はそれを、宏樹の背中越しに見つめていた。
宏樹の方が先に挨拶した上に、私はずっと彼の背中の後ろに立っていたものだから、後藤先生は私に気付いていないように見える。正直、このまま気付かないでほしいという思いも、ほんのちょっぴりあった。
だが、そんな都合のいい事が起きるはずもなく、やがて後藤先生は宏樹の後ろで少し縮こまっている私を見つけて、また豪快に笑った。
「あはは、何だよ前嶋。そんな辛気臭い格好で来てるから何かと思えば…彼女を見せびらかしに来たのか?」
「違いますよ、後藤先生」
間髪入れずに、宏樹が言った。
「こいつは、理香ですよ。安西理香です」
「…安西!?」
後藤先生の身体が一瞬硬直するのを見て、私の背筋に冷たいものが走った。
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