第24話

私達の視線の先にいたのは、この高校の陸上部に所属している今の生徒達だった。


 その中で、特に宏樹が見ていたのは男子達だ。ストレッチやウォーミング・アップが終わったのか、これから本格的な練習を始めようと順番に並んでいく。


「じゃあ、一本目!スタート!!」


 そんな彼らの傍らに立つジャージ姿の中年男性が、おもむろにホイッスルを吹く。


 ピィッ!!


 短く、甲高いホイッスルの音が響くと同時に、三、四人の男子が走り出す。その様子を見ながら、中年男性は「おいおい、お前達スタートが悪すぎるぞ!」と怒鳴っていた。


「…変わらないな、後藤(ごとう)先生は」


 ぽつりと呟く宏樹だったが、私もそう思っていた。年がら年中ジャージ姿だったので、ただでさえ頭が痛くなる数学の授業がひどく億劫になったし、クラスの担任でもあったから、当時は彼が嫌で嫌で仕方なかった。


 その事をあいつに話したら、あいつは「それでも君と宏樹がうらやましい、僕も後藤先生の授業受けて、陸上部に入りたかったな…」と言った。あの頃は理解できなかったけど、今ならあいつの気持ちがよく分かる…。


「後藤先生に挨拶してくるけど…理香はどうする?」


 宏樹が私を振り返って言う。やはり、どこか心配そうな顔をしていた。


 私は「一緒に行く」と、答えた。

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