第21話

居間に戻ると、宏樹がちゃぶ台に少し寄りかかるようにして、テレビに映っているプロ野球中継をぼんやりと眺めているところだった。


 壁の方に目を向けると、明日のあいつの七回忌に着ていくつもりなのか、新品の喪服スーツの上下がフックにきちんと掛けられている。


 私も自分の分をスーツケースから出さなくちゃと思いながら、宏樹の横をすり抜けて玄関に置きっぱなしのそれを取りに行こうとした時だった。


「大丈夫か?」


 これでいったい何回目の、同じ言葉になるだろう。思わず肩越しに振り返ると、宏樹はテレビ画面から私の方に視線を変えて、じっと心配そうに見つめていた。



「何が?」

「佐野(さの)に会ったんだろ?」


 佐野は、蒔絵の名字だ。ご主人が亡くなったとはいえ戸籍は変わっているのだから、今はその姓ではないだろうけど。


 私が「うん」と頷くと、宏樹はちゃぶ台に寄りかからせていた身体をしゃんと伸ばして、さらに私の顔を覗き込むようにしながら言った。


「本当に、何か言われたり、されたりしなかったか?」

「大丈夫…逆に怖がらせちゃった。何であんたがこの町にいるのって。蒔絵、あいつが死んだ事知らないもんね」

「ああ、そうだったな」


 宏樹がふうと長く息を吐いた。

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