第18話

「お母さん、ただいま~!」


 どこかに遊びに行ってきた帰りなのだろうか。小学一、二年生くらいの背の低い男の子が、顔中を砂まみれにしてこちらの方に走ってくる。そして、私の背後から母親のものらしき女の人の声が聞こえてきた。


「お帰り~!今日も楽しかった?」


 その女の人の声に、私の身体は一気に強張った。あいつの次に忘れられない、聞き覚えのある声だったから…!


「お母さ~ん!」


 男の子は私の横を通り過ぎ、後ろにいるであろう母親の腕の中に向かって飛び付いた。それをしっかり受け止めたのか、母親の楽しそうな笑い声が聞こえる。男の子の嬉しそうな声も重なっていた。


「ねえ、お母さん。今日の夜ごはんは何?」

「カレーにしちゃおっかなぁ~」

「ニンジン入れないでよ?」

「ダ~メ!ニンジンさんには栄養たっぷりなんだから。お母さん、大好きだからいっぱい入れちゃう~」


 …嘘つき。あんた、ニンジン大嫌いだったじゃん。見るのも嫌だって言ってたくせに…。


 背後の楽しそうな声が遠ざかっていく。行かないで。そう思った瞬間、私は振り返って大声を出していた。

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