第17話
「宏樹君もお帰りなさい。また立派になっちゃって」
「いえ、そんな…」
「まあ、とにかく二人とも上がりなさい。下道は疲れたでしょ?今、お茶を淹れるわね」
玄関の引き戸を開けっぱなしにしたまま、母は廊下を引き返していく。ギシギシと軋む古い木の廊下、シミがたくさん付いている灰色の壁、節穴が開きかかっている台所へのドア…何もかも、七年前とちっとも変わっていなかった。
でも、私はそれを懐かしいと感じてはいけないと思った。そんな感傷に浸る資格さえないとも…。
「理香」
宏樹の声が促すように後ろから聞こえる。
だが、私は踵を返して玄関に背を向けた。そのまま宏樹の横をすり抜け、家の敷地から出ようとしたところで、再び彼の声が聞こえていた。
「理香!どこ行くんだ!」
「…ちょっと。ちょっとだけ一人でいさせて」
振り返りもせずにそう言うと、私は今度こそ敷地から出る。宏樹は、追いかけてはこなかった。
少し早足で家から離れ、所々にヒビが入ったアスファルトの道を北に進んだ。
夕方に近い時間のせいか、そちらから帰路に着こうとする子供達の何人かとすれ違う。
このまま十五分ほどまっすぐ進めば、かつて私と宏樹が通っていて、あいつも一緒に通うはずだった高校の校舎が見えてくる――そう思った時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます