第16話
昔――若い頃の母は、首元よりもう少し伸ばしたセミロングの髪がとてもお気に入りだった。
確かに子供の目から見ても、その頃の母の黒髪はとても艶があって美しく、毎日の手入れを欠かしたのを見た事がない。
うらやましくて、どうすればそんなきれいな髪になるの?私もお母さんみたいな髪になりたいと、いつも母にすがって聞いていた。
そんな私に、母は決まってこう答えてくれた。
「理香ちゃんがいい子でいれば、大人になった時に自然ときれいな髪になってるわよ」
そう言ってくれた母の髪は今、大半が真っ白くなってしまっている。
艶があって美しかった黒色は、その真っ白い髪の隙間にわずかに残っているといった様子で、まるであの頃から一気に老いてしまったようだ。ほんの一瞬だけ、彼女が本当に私の母なのかと疑った。
そして、とても申し訳ない気持ちになった。
母をこんな姿にさせてしまったのは、言うまでもなく私のせいだ。美容院で髪を染める気も起きないほど、極力外出を控え、この古い一軒家に一人閉じこもるような生活を送らせている、私の…。
何も言えずに立ち尽くしてしまっている私の背中の向こうで、遅れて玄関先に立った宏樹が母に会釈する気配を感じる。それを見て、母はニコッと笑った。
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