第15話
「まだ、間に合うぞ」
車を完全に停止させてから、宏樹は私の方をやっと見てくれた。
「理香、無理しなくていい」
そう言って、私の肩にそっと触れてくる。その顔も声色も、本当に私を心配してくれていた。
「大丈夫」
私は言った。
「早く行こうよ。日が暮れちゃう」
「……」
「ほら、宏樹」
「双子山の横を通り抜けたら、もうすぐそこだからな」
宏樹は私から視線を外して、再び車を発進させた。
先ほどよりスピードを上げて、私達を乗せた車は双子山の横を通り過ぎていく。宏樹の言う通り、ここを過ぎてしまえば、私達の町まではもう目と鼻の先だった。
「お帰り、理香」
築何十年になるかも分からない古い家のチャイムを二回ほど押すと、引き戸になっている玄関の向こうからドタドタと慌てる足音が聞こえてきて、その次にはもう玄関が勢いよく開かれた。
それに少し驚いてしまった私だったが、しばらくぶりに見る母の姿にその驚きはさらに上書きされて、「ただいま」の一言が喉の奥に引っ込んでしまった。
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