第14話



 宏樹が運転する車に乗って、下道を何時間も進んだ。


 混み合った高速道路を尻目に、宏樹は順調にハンドルを操作しているが、出発してからほとんど口を開こうとしない。ずっと前だけを見据えて、私の顔を窺い見る事もなかった。


 宏樹がそんな調子なので、私もずっと助手席側の窓の外を眺めていた。


 次から次へと流れる景色は、次第に見覚えのあるものへと変わっていく。やがて、隣り合う稜線がなだらかである、小さな二つの山が視界の中心に現れた。


「双子山(ふたごやま)だな」


 宏樹が唐突に、そう呟いた。何時間かぶりに聞いたその声に、私は「うん」と短く答えた。


 高さから稜線の角度、果てには季節の変化に応じて色どりが変わっていく様までそっくりな事から、私の故郷の田舎町に住む者は、皆がそう呼んでいた。


 元々は名も無き山に、そんな月並みな名前を付ける事しか楽しみがないような、つまらなくてへんぴな町に私達は帰ろうとしている。思わず、膝の上のこぶしを強く握り締めていると。


「…本当に、大丈夫か?」


 また唐突に、宏樹が話しかけてきた。それと同時に、車は道路の端に向かってゆっくりとスピードを落としていく。


 私が運転席の方を振り向けば、宏樹はひどく心配そうな顔をしていた。

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