第13話
「優衣さんからの手紙は、始めるきっかけに過ぎないの…。毎年、宏樹からのプロポーズを受ける度に、あいつに何も返せてないって思い出してたし」
「理香」
「七回忌くらい、行ってあげなきゃ」
そう言ってから、私はコーヒーをちびちびと飲む。反対に宏樹はなかなか口を付けず、コーヒーから湯気が見えなくなった頃になって、ようやく一気に飲み干した。
「俺は、これからもずっと言うつもりだからな」
空っぽになったカップを小皿に叩き付けるように置いてから、宏樹が私をじっと見つめた。
「俺の気持ちは、七年前から少しも変わってない。あいつがいても、いなくても」
「うん、知ってる…」
私は小さく頷いた。
帰宅して、すぐ母に電話した。
数ヵ月ぶりの、しかも私からの電話に母はひどく驚いていたが、明日私が宏樹と一緒に帰ると言った途端、その驚きは強い喜びに変わった。
『もう、やっとあんたの顔が見られるのね。あんた、ちっとも帰ってきてくれないから、いつも宏樹君に根掘り葉掘り聞いちゃってたのよ?』
「もう、母さんったら…」
『それで?宏樹君と一緒に帰ってくるって事は…そういう事でもあるんでしょ?』
母も、宏樹の気持ちにうすうす気付いていたようで、その声はとても弾んでいた。私は「そんなんじゃないから」と短く言って、適当に電話を切り上げてから、明日の準備を始めた。
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