第10話

私は、優衣さんの顔を思い出そうと必死になった。


 七年前、彼女は中学一年の十三歳だった。私の傷の事を知るや否や、大倉さんと違って、とても汚らしいものを見るかのような目で私を睨んできたあの日を、よく覚えている。


『お兄ちゃんを、あんたみたいな奴と一緒にしないでよ!』


 そう、私とあいつは最初から何もかも違っていた。私はあきらめてしまったけど、あいつは最後まであきらめずに優しく笑ってくれていた。誰にでも、こんな私にでも…。


 あれから、優衣さんの事は母の手紙づてでしか聞いていなかった。二十歳になった彼女は、今は介護士を目指して福祉の専門学校に通っているらしい。


 兄思いの優しい子だったから、その道を進む事に疑問は抱かなかった。彼女らしいと思ったし、彼女なりに前を見据えて歩いていると尊敬さえした。


 宏樹もそうだ。あいつができなかった事を引き継いで、学生時代を懸命に走り抜けた。そして今も、あいつが進むはずだった道を走ってくれている。


 私だけ?そう思った。


 手紙を持っている左手から、視線を少し下に下ろしてみる。一年中着ている長袖の服。その袖の下にあるのは、とても醜い私の汚い部分。


 それすらも優しく笑ってくれたあいつの笑顔が、今でも私を捉えて離さないでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る