第8話
小さくて狭苦しいエレベーターが降りてくるのを待つ間、その横に設置されているポスト口の集団をほぼ反射的に見やる。
各部屋ごとに宛がわれたそのポストの数々には、その部屋の住人の性質が良く見て取れるほどの郵便物が無造作に突っ込まれていて、ひどい時には収まり切れずに床に散らばっているものさえあった。
私はその床に散らばっているものを何となく拾い集め、住所欄に書いてある部屋番号のポストに入れ直した。
305号室、鈴木さん…通販の請求書か。こっちは402号室の宮前さん…何か報告書っぽい封筒だな、探偵社の名前が書いてあるし…。
別に詳しく中身を見ている訳じゃないしと、淡々とした動きでポストに入れ続けていたが、最後の一通になった時、私の手が止まった。
508号室…私の部屋の番号だ。
私に届く郵便物なんて、光熱費や水道費、携帯電話の使用料などの請求書か、数ヶ月に一度の割合で書いてくる実家の母からの手紙くらいだ。
母は決まって薄い茶封筒を使っていた。中身が透けちゃうからやめるように何度も言ったのだが、何のこだわりがあるのか今もそれを使い続けている。
だから、私にはこの少し厚めの白い封筒が、母から送られてきたものではないという事がすぐ分かった。
素早く裏返してみれば、送り主の名は奥寺優衣(おくでらゆい)と書かれてある。
あいつの、たった一人の妹の名前だ。
ポンと、小気味いい音が聞こえてきた。エレベーターが到着した音に違いない。
それを無視して、私は急いで封筒の端を破り取り、中身を引っ張り出して読み始めた。
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