第3話

「もう、七年だぞ!」


 突然、宏樹が怒鳴った。


 そのあまりにも大きい声は私の足を止めるには充分過ぎて、私は途端に身動きが取れなくなる。


 そんな私の背中の向こうで、さらに宏樹が大声をあげる。当然ながら、彼がどんな顔をしているか分からなかった。


「もういいだろ!何でそこまで執着するんだよ!?理香がどんなに想ってたって、もうあいつはいない。帰ってこないんだよ!」

「……」

「お前、ずっと今のままで生きていくつもりか?そんなの、あいつは望んでない」

「言われなくても、分かってる」

「だったら」

「でもごめん、無理」


 肩越しにそう答えると、宏樹はぐっと押し黙った。ちらりと見えた視界の片隅で、宏樹の右手が割り箸を乱暴に折り曲げてしまっている様が見えた。


 お茶買ってくるねと告げて、私は再び自動販売機に向かった。


 夏の新商品もレパートリーに入ったショーケースの中からほうじ茶を見つけて、迷わず二本分のお金を投入口に入れる。


 取り出し口から一本ずつ順に手に取り、宏樹の元に戻ろうと屈めていた背筋を伸ばす。その時、夏の日差しに照らされたショーケースが鏡のように私の顔をうっすらと映した。


「ひどい顔…」


 思わず、そう呟いていた。それ以外、言葉が出なかった。

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