第115話

「どう、ですか?」

「え、どうって…」

「私の手。どう見えますか?」


 突き出された瞳の手を、轟木は見つめた。


 小さな手だなと思った。指先はすらっと細く、手入れされた爪は薄いピンクのマニキュアが塗られていた。


「あの人が言ったの…」


 うまく言葉が出てこない轟木に、瞳はぽつりと言った。轟木のこめかみがピクリと疼く。あの人とは、ユウヤの事に違いないと思った。


 彼女は再び話し始めた。


「あの時、言われたの。『真っ白い手だ』って」

「ああ、俺もそう思うよ」

「あの人、言ってた。『飯塚は、昔のあるべきやり方で必ず裁かれる。俺達はその為に戦ってる。だからどうかその日が来るまで、真っ白い手のままでいてほしい。君のお母さんに誓うから』って」


 瞳の両目に、うっすらと涙が滲んだ。唇がわずかに震えている。泣くのを必死に堪えているような声色で「ずるいよ」と言葉を続けた。


「ユウヤって人、ずるいよ。あんな事言われたら、お母さん思い出しちゃうじゃない。お母さんにこんな私見せられないって考えちゃうじゃない」

「瞳ちゃん…」

「だから悔しいけど憎いけど、待つ事しかできなくなっちゃったの」


 瞳がわずかに微笑んだ。彼女の苦悩を目の当たりにして、轟木はやるせなかった。

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