第113話
そう言って、また田沼は椿を見る。椿はもう椅子から立ち上がり、研究室のドアに向かおうとしていた。
「どこに行くんだ?話はまだ途中だぞ」
田沼がその背中に向かって声をかければ、「もう充分だ、こっちは現場から消えた風見桐子のデリンジャーを探すのに忙しい」という返事が返ってきた。
椿がドアを潜り抜けて、その姿が見えなくなった時、田沼は苦笑混じりにぽつりと呟いた。
「子供の頃から変わらないな、あいつは」
†
轟木刑事は非常に困っていた。取調室ではなく、二十人は入れる会議室で有山瞳と二人きりでいるからだ。
普段ならどんな犯罪者が相手でも臆する事なく取り調べる事ができるのに、今回は別れた息子とそう年の変わらない女子高生。しかも被害者だ。
『委員会』の女に一任すると言われたが、どう話を切り出していいものか…。
タバコに火を点ける事もできず、フィルターを噛み潰したまま、もうどれだけ黙ってしまっているだろう。
轟木はちらりと瞳を見た。二人は長い机を挟むような形でパイプ椅子に座っている。
瞳は、机の上に投げ出した自分の両手の手のひらをぼんやり見つめていた。
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